非営利団体
一般社団法人

がん疼痛治療普及研究会
Society for Interventional Management of Cancer Pain (SIMCaP)

こんにちは
代表理事の服部政治です。私は大分医科大学を卒業後、麻酔科医として大学病院で修練を積み、2000年、米国Memorial Sloan Kettering Cancer Centerの麻酔科ペインクリニックで半年間がん疼痛治療を学びました。帰国後、大分大学付属病院で緩和ケアチームを立ち上げ、東京のがん専門病院でがん疼痛の治療を中心にペインクリニック・緩和ケアを実践してきました。2019年から沖縄県中部地区にある医療法人徳洲会中部徳洲会病院 疼痛治療科統括部長として勤務しております。当科は現在、がん疼痛に対する神経ブロック、脊髄鎮痛法の実施数で、日本でも1,2を争います。
昨今、厚生労働省は、がん疼痛に対する治療を医療用麻薬や内服治療だけに頼るのではなく、麻酔科と連携して神経ブロックや脊髄鎮痛法を、そして放射線科と連携して放射線治療を併用するように臨床の現場に通知しました。指導者が少ないこの分野で、若手医師が神経ブロックや脊髄鎮痛法を修得するには熟練した指導者が必要です。しかしながら指導する側も寄る年波には勝てません。今では引退が目前に迫っています。我々の手技が日本一というわけではありませんが、私たちが長年の経験で得た技術やノウハウを、引退までに若い医師に継承しようと有志とともに出資してこの研究会を立ち上げました。
我々の技術を見てみたい、修得したい、指導してもらいたい、もっとがん疼痛の治療法を知りたいという方のお力に少しでもなれれば幸いです。2029年までに一人でも多くの若い医師に伝えることができたらと願っています。
指導者を派遣するときの沖縄からの旅費、宿泊費、診療報酬などはすべて研究会が負担します。診療報酬を支払わないと呼ぶことができないというのであれば、呼ぶ施設の規定の報酬で構いません。ご興味がある方はぜひご連絡いただければと思います。
ストーリー
医師になって約30年が過ぎ、一線から引退する出口が見えて来たとき、これまでの経験を後進に伝承するにはどうしたらいいか?と考えた。これまでがん疼痛治療の普及を中心に活動してきた備忘録を記載する。
医師になって8年目、2000年に米国のがんセンターに留学(臨床見学)する機会があった。そこで見たものは日本で私が教わってきたがん疼痛治療とは大きく異なるものだった。その当時、日本にはがん疼痛に使用する薬剤はモルヒネ製剤しかなかったが、米国ではすでにオキシコドン、ヒドロモルフォン、フェンタニル貼付剤、メサドンなど医療用麻薬が豊富に使用されていた。それでも痛みが取れない患者は数多くいた。そういった患者に神経ブロックや脊髄鎮痛法を積極的に駆使して痛みと闘っている米国の医師らの姿を見て、「日本にこれを持ち帰る」と決心した。
帰国後すぐ、日本に新たな医療用麻薬が矢継ぎ早に導入された。同時に政府は「緩和ケア」という概念を広めるべく、医療者への啓発を進めていった。緩和医療の推進と医療用麻薬使用によるがん疼痛対策は国の重要な施策として強力に進められた。その一方で、専門的治療としてそれまで麻酔科・ペインクリニックで実践してた神経ブロックや脊髄鎮痛法は、医師なら誰もができる治療法ではないため、緩和ケアを全国に広めたいという均てん化の趣旨とは相いれなかったのか、敬遠されていった。私や麻酔科の仲間たちは、その技術の重要性を国や学会に訴え続けて来たが、均てん化が優先されその声はかき消されていった。
それから20年が経過し、当時がん疼痛に対する神経ブロックをしていた医師は後進を育てることができないままに引退していった。人も技術も消えていったのである。ところが、20年経ち、国民のがんの痛みが十分に取れていないことに気づいた国は、がん診療拠点病院に向け、がん疼痛に対して神経ブロックや放射線治療を併用するように通達を出した。現場では、通達をもとに神経ブロック等を麻酔科に依頼するようになったが、それを実施できる麻酔科医が居ないために、断られるという事態が日本中で起きた。若手医師も、実践したくてもそのノウハウが分からず、指導に来てもらう先輩医師も近隣で見つからないというジレンマに陥っている。技術を学ぶために実施数が多い施設で研修したくても、所属変更、引っ越し、キャリアの中断などを考えると容易ではない。また、若手医師の場合、子供が幼い、転校させなくてはならない、医局を離れるわけにいかないなど、若手ならではの問題もある。
この問題を解決するには、指導者を自分の施設に招聘して技術を見せてもらう、そして指導してもらうのが一番の方法であろうと思う。ところが次のハードルは、医師を招聘するためにかかる費用であった。旅費、宿泊費、指導報酬を支払うためには病院・施設に許可をもらう必要がある(通常、患者に負担させることはしない)。認可が下りるまでにかかる時間、手間を考えると招聘も躊躇せざるを得ない。特に沖縄からの旅費となると負担も大きくなる。招聘したくてもできないことも多い。
そこで、今回、がん疼痛に神経ブロック等を普及してほしいと願う一般の方(遺族)と代表理事である私の私財を投じ、招聘にかかるすべての費用を負担することで招聘する側の負担を0にする指導者派遣のシステムを構築することにした。原資と派遣指導者の年齢には限りがあり、5年間の活動をひとつの目安にしている。この期間内になるべく多くの大学、施設に技術伝承ができることを願っている。